がんばる筋トレは逆効果? 脳卒中後の後遺症に大切な「力の抜き方と出し方」
加須リコネクトには、加須市をはじめ、埼玉県内や久喜市、羽生市といった近隣の地域からも、脳卒中後遺症やパーキンソン病でお悩みの方が多く足を運ばれています。その中で、脳卒中後遺症や小脳の症状(失調症状など)を抱える方や、そのご家族とお話ししていると、リハビリに対する熱心な思いゆえに、こんなご相談を本当によく耳にします。
- 「一生懸命に力一杯動かそうとすると、かえって体がガチガチになってしまい、余計に動かなくなる…」
- 「手や足を動かしたいのに、動かそうとした瞬間に別のところまで力が入ってしまい、動きがとてもぎこちない」
- 「もっと筋力をつければ動けるようになると言われて、家でも懸命に筋トレをしているが、なかなか成果を感じられない」
「リハビリ=重いものを持ったり、歯をくいしばって筋肉トレーニングをがんばったりしなければならない」というイメージをお持ちの方は少なくありません。
しかし、神経や脳のメカニズム、そして実際の身体の反応に目を向けてみると、麻痺や失調があるお体のリハビリにおいて「がむしゃらに頑張って力むこと」は、かえって逆効果になってしまうケースが多々あります。
今回は、なぜ「がんばる筋トレ」が逆効果になり得るのか。そして、滑らかな動きを取り戻すために私たちが大切にしている「協調性(効率的な力の抜き方と出し方)」の本質と、身体のつながり(近位部と遠位部の関係)について、臨床の視点から詳しく紐解いていきます。
「協調性」の正体とは? なぜ力むと動けなくなるのか
私たちが日常の中で、何気なく目の前のコップを取ったり、スムーズに歩いたりするとき、身体の中では無数の筋肉が絶妙なタイミングでバトンタッチを繰り広げ続けています。この「複数の筋肉や関節が、適切なタイミングと力加減で連動する仕組み」を、専門用語で協調性と呼びます。
脳卒中や小脳の症状がある場合、問題の本質は「筋力が足りないこと」だけではありません。それ以上に大きな問題となるのが、「動かしたときに、隣接する関節や筋肉へ余計な力が波及してしまうこと」や「力の抜きどき・入れどきのタイミング(制御機構)がズレてしまうこと」です1-2。
ここで、歯を食いしばって「がんばる筋トレ」をしてしまうと、身体の中で何が起きるでしょうか?
脳や神経は、一気に過剰な緊張を高めてしまい、本来スムーズに流れるべき力のコントロールが乱れます。結果として、主動筋(動かしたい筋肉)だけでなく、それを邪魔する拮抗筋や周囲の筋肉まで一斉に収縮してしまい、身体全体がガチガチに硬直してしまうのです3。これが、「頑張れば頑張るほど動けなくなる」という現象の正体です。
全身で見るとは?土台(近位部)の安定が、手先の滑らかさを生む
失調症状や脳卒中後の上肢の動かしにくさを診るとき、私たちは「手先そのもの」だけに注目するわけではありません。例えば、左上肢の協調性を改善したいと考えたとき、そこには身体の中心に近い「近位部」のコントロールが深く関わっています。
ここで大切にしたいのは、あらかじめ「この筋肉がこうなっているはずだ」と型にハメることではありません。お一人おひとりの身体の緊張のクセや、体幹から四肢への力の伝わり方を丁寧に評価した上で、次のような関係性に目を向けていきます。
- 手先や腕を滑らかに空間へ投げ出すためには、その末端を支える土台となる体幹や肩甲帯(身体の中心に近い部分)が、適切なタイミングで安定し、支えてくれる必要があります2。
- 背中や体幹、肩のまわりの筋肉や、それを結ぶ筋の連動がしなやかに働くことで、初めて末端である腕や手が「無駄な力み」から解放されます。逆に言えば、この土台部分での選択的な活動が低下していると、手先を動かそうとした瞬間に体幹ごと崩れてしまい、バランスを取るために余計な力が入ってしまうのです3。
つまり、部分的な筋力を鍛えることよりも、「その人の身体の個性(つながりや連動の癖)に合わせた協調性を取り戻すこと」が、結果的に一番の近道になるというわけです。
「力の抜き方」と「適切な出力」を覚える自主練習
では、こうした背景を踏まえて、自費リハビリの現場やご自宅での自主練習では、どのような意識を持つことが大切なのでしょうか。目指すべきなのは、「力でねじ伏せる運動」ではなく、「身体の余分な力がふっと抜ける瞬間を味わいながら、必要な出力をコントロールすること」です。
- まずは身体の土台を整える(環境と支持)
- 不安定な状態のまま動こうとすると、反射的に余計な力が入ってしまいます。まずは足元や座り方の環境を整え、体幹や背中がリラックスして支えられるベースを作ります
- 「がんばって動かす」を手放し、適切な出力を探る
- あえて力一杯動かすことをやめ、セラピストの適切な徒手的な評価・介入やサポートを通じて、「どこで力を抜き、どのタイミングで最小限の出力を発揮すればよいか」という感覚を脳に再学習させます2
- 滑らかな動きの変化を感じ取る
- 「あ, 余計な力が抜けてスムーズに腕が前に出る」「必要な分だけ力を伝えられた」という、ご本人の主観的な感覚の変化を何よりも大切にします
まとめ
「もっと動かさなきゃ」「筋力を落とさないようにしなきゃ」と懸命に頑張るお気持ちは、当事者の方にとってもご家族にとって本当に痛いほどよく分かります。
しかし、麻痺や失調を抱えるお体にとって本当に必要なのは、力任せのハードなトレーニングではなく、神経と筋肉の連動(協調性)を優しく呼び覚まし、正しい力の抜き方と適切な出力を学ぶプロセスです。
加須リコネクトには、加須市をはじめ、埼玉県内や久喜市、羽生市といった近隣の地域からも、脳卒中後遺症やパーキンソン病でお悩みの方が多く足を運ばれています。お一人おひとりの身体のつながりや、その日の状態を細やかに見極めながら、「がんばらなくてもスッと動く」身体の使い方のサポートを行っています。
「自分の身体の癖を知りたい」「どんな自主練習が自分の状態に合っているのか分からない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたの身体が本来持っている、滑らかで自然な動きを取り戻すための第一歩を、一緒に丁寧に紡いでいきましょう。
参考文献
- Sinha, N., Israely, S., Ben Harosh, O., Harel, R., Dewald, J. P., & Prut, Y. (2025). Disentangling acute motor deficits and adaptive responses evoked by the loss of cerebellar output. bioRxiv : the preprint server for biology, 2024.05.21.595172. https://doi.org/10.1101/2024.05.21.595172
- Topka, H., Konczak, J., & Dichgans, J. (1998). Coordination of multi-joint arm movements in cerebellar ataxia: analysis of hand and angular kinematics. Experimental brain research, 119(4), 483–492. https://doi.org/10.1007/s002210050364
- Zengin, E. S. (2024). Ataxia in patients with multiple sclerosis: A brief review. Journal of Multiple Sclerosis Research, 4(2), 23–27. https://doi.org/10.4274/jmsr.galenos.2024.2024-4-1


