脳卒中後の『ふらつき』はどうして起きる?リハビリで大切にしたいバランスの3つの要素
脳卒中を経験された方やそのご家族から、「立っているときにフラフラしてしまう」「麻痺側の足にうまく体重が乗らない」というお悩みをよく耳にします。
実は、私たちが何気なく立ったり歩いたりしているときの「バランス」は、目や足の裏からの情報、そして身体の軸を支える筋肉などの高度な連携によって保たれています。今回は、科学的な研究データも踏まえながら、脳卒中後のバランスの仕組みとリハビリの大切なポイントを分かりやすく解説します。
先行研究からわかる、脳卒中後のバランスの特徴
近年のリハビリテーション科学やバランスに関する研究では、脳卒中後の姿勢の不安定さ(ふらつき)について、主に次のような特徴が明らかにされています。
- 体重の偏り(荷重非対称性): 研究データでも示されているように、脳卒中後は無意識のうちに健康な側の足ばかりに体重をかけてしまい、麻痺側の足に十分な体重を乗せにくくなる傾向があります1。
- ゆらぎ(姿勢動揺)の増加: 特に目を閉じたり、不安定な場所で立ったりすると、身体の揺れが大きくなりやすいことが分かっています2。これは、脳がバランスを取るための情報をうまく処理しにくくなっていることが一因です3。
バランスを成り立たせる「3つのシステム」
人間が倒れずにバランスを保つためには、脳が次の3つの感覚情報を上手にまとめる(統合する)必要があります。
- 体性感覚(足の裏の感覚や筋肉・関節のセンサー)
- 地面の硬さや、足の位置が今どうなっているかを脳に伝える一番の土台です。麻痺側ではこの感覚が鈍くなりやすくなります4。
- 視覚(目からの情報)
- 周りの景色や水平面を見ることで、身体の傾きを修正します。実は、脳卒中後の方はバランスを保つために視覚情報への依存度が強くなるという特徴があります5。
- 前庭覚(耳の奥にある平衡感覚)
- 頭の傾きやスピードを感じ取り、姿勢をまっすぐに保ちます6。
これら3つのうち、どれか一つでもうまく働かなくなると、身体はフラついてしまいます。そのため、リハビリでは「あえて環境を少し変えて、普段使いにくい感覚や機能を呼び覚ますアプローチ」がとても重要視されています。
日常生活や自費リハビリで意識したいポイント
「ふらつきを改善したい」「もっと安定して歩きたい」と思ったとき、ただがむしゃらに筋肉を鍛えるだけでなく、以下のような視点を取り入れることが重要と考えます。
- 「なぜ揺れるのか」のエラーを個別に見極める
- 脳卒中後のふらつきの原因は、「麻痺側の足裏の感覚が鈍いのか」「目からの情報に頼りすぎていて環境の変化に弱いのか」、あるいは「頭の傾きを捉える前庭覚と他の感覚の切り替え(感覚再重み付け)がうまくいっていないのか」など、人によってまったく異なります。
- 画一的な筋トレを繰り返すのではなく、「ご自身のバランスシステムの中で、どこの連携が滞っているのか」を正確に評価することが改善への第一歩です。
- その人だけの「環境」と「課題」に合わせた再学習
- 例えば、閉眼や足元の変化に弱い方には、あえて感覚の入力を変化させた環境下でのバランストレーニングを取り入れるなど、その方の生活背景や麻痺の特性に合わせたオーダーメイドの介入が不可欠です。
- お一人ずつの身体の特性やエラーを丁寧に紐解き、本当に必要な感覚入力と動作の再学習をマンツーマンでサポートしていくことが重要と考えます。
参考文献
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